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→ 派遣で働く前に知っておきたかったお金の話【30年・40社の実体験】
突然、体が動かなくなったとき。
入院が必要になったとき。
親の介護が必要になったとき。
そのとき頭をよぎるのは、仕事のことよりお金のことではないでしょうか。
派遣社員やパートで働いていると、「休んだら収入がなくなる」という不安は正社員より大きい。
そして「どうせ派遣だから、手当なんて関係ない、対象外だ」と、最初からあきらめてしまう人も多いと思います。
でも、それは違います。
私は約30年、40社以上を渡り歩いてきた派遣社員です。
その間に傷病手当金を3回使いました。
パートのときに2回、派遣のときに1回。
制度を知っていたから使えた、というより、教えてくれた人がいたから助かった、という話でもあります。
介護休暇については、使おうとして結局使わなかった経験があります。
そして、同じ職場の派遣社員が「取れません」と言われて、泣く泣く退職した場面も見ています。
制度はある。
でも、使えるかどうかは別の話です。
傷病手当金とは——派遣社員・パートも対象の制度
傷病手当金とは、病気やけがで働けなくなったとき、その間の生活を支えるために健康保険から支給されるお金です。
よく「正社員しかもらえない」と思われていますが、雇用形態は関係ありません。
派遣社員でも、パートでも、社会保険(健康保険)に加入していれば対象になります。
受給するための条件は4つです。
①健康保険に加入していること。派遣会社や勤務先を通じて社会保険に加入していれば対象です。
なお、在職中であれば加入初日から受給できます。1年未満でも問題ありません。
②業務外の病気やけがで働けない状態にあること。
仕事中や通勤中の事故は労災扱いになるため、傷病手当金とは別の制度になります。
③連続する3日間を含めて4日以上休んでいること。
最初の3日間は「待期期間」といって支給の対象外です。有給休暇や土日祝日も待期期間に含まれます。
④休んでいる間に給与の支払いがないこと。
有給休暇を使って給与が出ている場合は対象外になりますが、有給休暇の給与が傷病手当金より少ない場合は差額が支給されます。
ご自身が加入中の健康保険組合によって問い合わせ先は変わります。
どこの健康保険組合に加入しているかが不明な方は、派遣会社に問い合わせしてください。
恐らく多くの派遣会社は協会けんぽで加入していると思います。
詳しくは協会けんぽの公式ページもご確認ください。
→ 病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)|協会けんぽ
支給額と期間
支給額は標準報酬月額の3分の2、つまりおおよそ給与の約67%が目安です。
支給期間は同一の病気・けがについて、支給開始日から通算して最長1年6ヶ月です。
途中で復職して支給が止まっても、同じ病気で再び休んだ場合は残りの期間が引き続き使えます。
派遣契約期間中に限った話ではなく、条件を満たしていれば契約終了後も継続できる場合があります。
申請はどうやるの?
申請書は3種類あり、すべて揃えて提出する必要があります。
・本人が記入する部分
・派遣会社(事業主)が記入する部分
・担当医師が記入する部分
3種類が揃ったら、一般的には派遣会社がまとめて健康保険組合に提出します。
まずは派遣会社の担当者に相談するのが最初のステップです。
なお、担当者から「直接、健康保険組合に電話して確認してください」と言われる場合もあります。
実際に傷病手当金を申請してみた話——パートで2回、派遣社員で1回
私が傷病手当金を実際に受け取ったのは3回あります。
1回目と2回目は、直接雇用のパートで働いていたときです。
派遣ではなくパートでも使えた、という話として読んでください。
1回目は婦人科系の手術で入院10日、自宅療養も含めて合計14日ほど休みました。
2回目はその2年後、同じく婦人科系の手術で入院7日、自宅療養も含めて合計10日ほど休みました。
そのときに加入していたのが、とある健康保険組合でした。
協会けんぽにはない「付加給付」という制度があり、医療費の自己負担が一定額を超えた場合に超えた分が還元される仕組みです。
(実際に私は1回目と2回目の両方、健康保険組合から7〜8万円くらいお見舞金をいただきました)
このように、傷病手当金とは別に、入院時のお見舞金制度がある保険組合もあります。
自分がどの健康保険組合に加入しているか、一度確認してみる価値はあります。
なお、当時はマイナンバーカードがなかったため、高額療養費は書類を提出して後日郵送で支給されました。
今はマイナンバーカードを健康保険証として事前登録(マイナ保険証)し、かつ医療機関がオンライン資格確認に対応していれば、窓口での支払いを最初から自己負担限度額までに抑えることができます。
登録していない場合は、いったん高額な医療費を全額窓口で支払い、後日申請して戻ってくる流れになります。
入院が決まったときだけでなく、今すぐにでもマイナ保険証の登録状況を確認しておくことをおすすめします。
3回目は派遣社員として働いていたときです。
急遽入院することになり、手術なしで自宅療養込みで合計10日ほど休みました。
入院することになったので仕事を休ませてほしいと連絡したときに、派遣会社のアシスタント担当者がこう言ってくれました。
「一番の心配はお金のことだと思うから、私にできることは傷病手当金の書類をいち早くお渡しすることです。派遣先とのやりとりはすべて任せてください」
書類は病院に郵送してもらい、主治医に記入してもらいました。
担当者が動いてくれたおかげで、療養に集中することができました。
こんな対応をしてくれる担当者は、なかなかいないと思います。
入院という不安な状況の中で、お金のことを真っ先に考えて動いてくれた。
それがどれだけ助かったか、今でも忘れられない出来事です。
通勤経路と傷病手当金——申請と違う方法で通勤していたら
ここで一つ、知っておいてほしい話をします。
以前、直接雇用の契約社員として働いていた職場での話です。同僚が通勤途中に事故にあいました。
ところが、その方は会社に申請していた通勤経路・交通手段とは違う方法で通勤していました。
交通費も公共交通機関で支給されていたのに、実際は交通費を浮かせるために自転車で通勤していたのです。
通勤中の事故は本来、労災(通勤災害)の対象になります。
しかし、申請していた経路や交通手段と異なる方法で通勤していた場合、通勤災害として認定されないことがあります。
さらにその方は2日間休んだだけで復帰したため、健康保険の傷病手当金も対象外でした。
傷病手当金は連続3日の待期期間を含む4日以上の休業が条件だからです。
結果として、労災も傷病手当金も、どちらも対象外でした。
通勤経路や交通手段は、会社への申請内容と実際が一致していることが大切です。
「いつもと違う方法で通勤する」ときは、事前に会社に届け出ておくことをおすすめします。
派遣社員も介護休暇・介護休業は取れる——制度の基本と現実
介護休暇と介護休業、似た言葉ですが別の制度です。
まず整理します。
介護休暇(短期・年5日まで)
介護休暇は、短期間の休みが必要なときに使う制度です。
対象家族1人につき年間5日まで、時間単位や半日単位でも取得できます。
通院の付き添いや介護サービスの手続きなど、幅広い用途で使えます。
なお、2025年(令和7年)4月の法改正により、これまで勤続6ヶ月未満の労働者は介護休暇の対象外とすることができましたが、この除外規定が廃止されました。
入社してすぐの方でも介護休暇を取得できるようになっています。制度は少しずつ改善されています。
ただし、介護休暇中の給与は法律上は無給でも問題なく、有給扱いにするかどうかは派遣会社の就業規則によって異なります。無給の場合、有給休暇を先に使う人も多いようです。
介護休業(長期・通算93日まで)
介護休業は、長期間の休みが必要なときに使う制度です。
対象家族1人につき通算93日まで、3回に分けて取得できます。
雇用保険から介護休業給付金として、賃金のおよそ67%が支給されます。
どちらも正社員だけでなく、派遣社員・パート・契約社員も対象です。
育児・介護休業法で定められた権利であり、事業主は申請を拒否できません。
詳しくは厚生労働省の介護休業制度特設サイトもご確認ください。
→ 介護休業制度|厚生労働省
対象になる家族の範囲(同居していなくてもOK)
〇対象:
・配偶者(事実婚含む)
・父母・祖父母・兄弟姉妹・子・孫(自分の血縁)
・義父母(配偶者の父母のみ)
✕対象外:
・義祖父母・義兄弟姉妹など義父母以外の配偶者側の親族
・叔父・叔母・いとこなど
派遣社員が介護休業を取るための条件
以下の2つをどちらも満たす必要があります。
①同一の派遣会社に1年以上雇用されていること
②介護休業開始予定日から93日を経過した後6ヶ月以内に契約が満了し、更新されないことが明らかでないこと
3ヶ月更新が多い派遣では、この条件を満たすのが現実的に難しいケースもあります。
ただし私が介護休業を検討したときは1年更新だったため、条件は満たしていました。
実際どうなったかは、次のセクションで話します。
派遣社員の介護休業——「取れる?取れない?」
私が介護休業を取ろうとしたのは、両親の介護が必要になったときです。
1年更新の契約だったため、条件は満たしていました。
派遣会社の担当者に「介護が必要になるかもしれない」と伝えたところ、了承してもらいました。申請書類も取り寄せていました。
でも、介護休業を取るタイミングをはかりすぎていました。
まだ大丈夫、もう少し様子を見てから、と思っているうちに、両親は亡くなりました。
早くとって、しっかり介護してあげればよかった。今でもそう思っています。
介護休業のタイミングを見計らうのは、本当に難しいことです。
私のケースから半年後のことです。
同じ派遣会社の、同じ担当者が、別の派遣社員(Aさん)には「介護休業は取れません」と伝えていました。
Aさんは、私と同じ派遣会社に所属し、隣の部署で同じ業務を担当していた方です。
つまり、条件はほぼ同じでした。
Aさんが「親の介護が必要になりそうなので、介護休業を取りたい」と相談したところ、あっさり断られてしまったそうです。
そのため、Aさんはこう判断しました。
急に退職すると派遣先に迷惑がかかるし、介護の状況もまだ差し迫っているわけではない。
そこで、契約通り「退職の申し出から1か月後に退職する」形を選び、派遣会社に「家庭の事情で退職したい」と伝えました。
ところが、その翌日のことです。
Aさんは、派遣先の上長2人と総務担当2人、計4人に会議室へ呼び出され、「明日からもうあなたにやっていただく仕事はありません」と告げられ、実質的に即日退職となってしまいました。
ここで、一つ重要なポイントがあります。
派遣社員の雇用契約は、派遣先ではなく派遣会社との間にあります。
そのため、進退や契約に関する話は、本来すべて派遣会社を通じて行われるべきです。
派遣先が直接「明日から仕事はない」と伝えるのは、手順として問題があります。
また、育児・介護休業法では、条件を満たしていれば、事業主は介護休業の申請を拒否できないとされています。
もし同じように「取れない」と言われた場合は、派遣会社の別の窓口や、都道府県の労働局へ相談することをおすすめします。
退職後も使える——ハローワークの傷病手当と受給期間延長
病気や介護で働けなくなり、やむを得ず退職した場合でも、使える制度はいくつかあります。
ただし、名前が似ていて混同しやすいので、まずは整理しておきましょう。
まず、「働けなくなったタイミング」で制度が変わります。
在職中か、退職後かで考えると分かりやすいです。
在職中に使う制度は、健康保険の「傷病手当金」
在職中に使う制度は、健康保険の「傷病手当金」です。
病気やけがで働けなくなったときに支給され、加入している健康保険(協会けんぽや健康保険組合)からお金が出ます。
退職後に使う制度は、雇用保険の「傷病手当」
退職後に使う制度は、雇用保険の「傷病手当」です。
ハローワークで求職の申し込みをしたあと、病気やけがにより、15日以上続けて働けない状態になった場合に支給されます。
こちらは雇用保険から支給され、金額は失業給付(基本手当)と同じです。
※「傷病手当金」と「傷病手当」名前は似ていますが、まったく別の制度です。
失業給付の受給期間の延長
さらに、もう一つ大切なのが「失業給付の受給期間の延長」です。
通常、失業給付は退職した翌日から1年間が受給期間ですが、病気やけがで30日以上働けない状態が続く場合、その期間分だけ受給期間を延ばすことができます(最長3年)。
全体の流れ
つまり、全体の流れとしてはこうなります。
療養中は「傷病手当金」で生活を支える
↓
回復後、求職できる状態になったら
↓
延長しておいた失業給付を受け取る
なお、注意点があります。
健康保険の「傷病手当金」と、雇用保険の「失業給付」は、同時に受け取ることはできません。
どちらか一方を選ぶ必要があります。
介護を理由に退職した場合も、ハローワークに相談することで受給期間の延長が認められる場合があります。
詳しくはお住まいの地域のハローワークに問い合わせてみてください。
→ 基本手当について|ハローワークインターネットサービス
まとめ——制度を知っていれば、選択肢が増える
派遣社員だから、パートだから、傷病手当金や介護休業は関係ない、対象外だ。
そう思っていた方に、制度を知るきっかけになればと思います。
私が傷病手当金を使えたのは、パート時代に2回経験していて制度を知っていたからです。
そのうえ、派遣会社の担当者がスムーズに動いてくれたことも大きかった。
担当者との日頃のコミュニケーションは、いざというときに差が出ます。
何か困ったことがあれば早めに相談する、報告はきちんとする。
そういった積み重ねが、いざというときの対応につながることがあります。
逆に、介護休業は条件を満たしていたのに、タイミングをはかりすぎて使えないまま終わりました。
制度があっても、使わなければ意味がない。それも身をもって経験しました。
同じ制度があっても、担当者によって「使える」と言われることも「取れません」と言われることもある。
派遣会社の担当者も、制度について詳しい知識を持っているとは限りません。それが派遣の現実です。
だからこそ、自分で制度を知っておくことが大切だと思っています。
知っていれば、おかしいと気づける。気づけば、相談できる。
この記事でまとめた制度のポイントをもう一度確認しておきます。
傷病手当金は、社会保険に加入していれば派遣社員もパートも使えます。
在職中であれば加入初日から対象です。申請は派遣会社経由で行い、医師の証明が必要です。
介護休暇は年5日まで取得でき、事業主は拒否できません。
基本的には無給ですが、会社の制度によって有給の場合があります。
介護休業は条件がありますが、1年以上同じ派遣会社に雇用されていれば対象になる可能性があります。
退職後も、雇用保険の傷病手当や受給期間延長という制度があります。
まずは自分が加入している健康保険組合と、派遣会社の就業規則を確認してみてください。
そして何かあったときは、ハローワークや都道府県の労働局にも相談窓口があることを覚えておいてください。
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