はじめに
「派遣社員って、時給交渉できるの?」
実は、できます。
でも知らない人がとても多い。
私は30年以上、40社以上の企業で派遣社員として働いてきました。
最初のころの私も、時給は派遣先と派遣会社が最初に決めたら、ずっと同じ時給のままだと思っていました。
でも違いました。
派遣社員だって、時給交渉ができます。
そして実際にやってきました。
うまくいったこともあれば、思うようにいかなかったこともあります。
この記事では、30年の経験から見えてきた時給交渉のリアルを全部話します。
時給交渉のベストタイミング
「いつ交渉すればいいの?」とよく聞かれますが、正直なところ、これは派遣会社・派遣先・担当者・状況によってまったく違います。
「3か月更新のたびに交渉できる」という話もあれば、「1年は様子を見て」と言われることもある。
ただ共通して言えるのは、契約更新の約1か月前に派遣会社から「次回も更新しますか?」という確認の連絡が来ます。
電話だったり、担当者が派遣先に訪問しての面談だったり、形はさまざまです。
このタイミングが、時給の話を切り出す一番自然な場面であることは間違いありません。
時給交渉の相手は、基本的に派遣会社の担当者です。
派遣先には雇用主としての権限がなく、時給を決めるのはあくまで派遣会社だからです。(参考:労働者派遣法 – e-Gov法令検索)
ただし、こんなこともありました。
派遣会社に「時給アップは難しい」と言われたので更新しないことにしたところ、その話を聞いた派遣先から「理由を教えてほしい」と言われました。
正直に話したら、派遣先が派遣会社に働きかけてくれて、結果的に時給が上がったのです。
交渉のルートは派遣会社が基本ですが、自分の働きを評価してくれている派遣先がいれば、こういう展開になることもあります。
ちなみに派遣会社から「正社員だって昇給は年1回、査定で決まるんですよ」と言われたことがあります。
都合のいいときだけ正社員の話を持ち出すの?と思いましたが、こういうことを言ってくる担当者もいます。
流されないようにしましょう。
事前の「種まき」が重要
時給交渉は、更新のタイミングで突然「上げてください」と言っても、なかなかうまくいきません。
私がやってきたのは、日ごろから交渉の材料を積み上げておく「種まき」です。
一番使いやすい材料は、契約内容にない業務が増えていることです。
こんなことがありました。
顔合わせのときに「電話応対はありません」と言われていたのに、実際は電話が鳴りっぱなしの職場でした。
後から分かったのですが、前任者が電話応対の苦手な人だったため、電話応対なしという契約になっていたようです。
電話が立て込んで誰も取れない場面で「ちょっと出てもらえる?」と頼まれて出てみたら、「上手だからぜひ」という流れになりそうでした。
そのタイミングで「ありがとうございます。ただ、電話応対は契約に含まれていないので、担当者に確認してもらえますか?」と伝えるのが自然です。
ここで黙ってこなしてしまうと、そのままなし崩し的に当たり前の仕事になってしまいます。
こういったことには、いくつかの「言い訳」がついてきます。
「前任者が普通にやっていたから」「事務職なんだから当たり前でしょ」「伝え忘れていました」——。
主婦でいう「見えない家事」のようなもので、なんとなくやって当然の空気になっていることが多い。
スキルがあると知られると「じゃあこれもやって」と仕事が増えることもあります。
でも、その時給でやると契約したのはあくまで最初の業務内容です。
できるからやる、ではなく、やるなら時給に反映されるべきです。
だからこそ、契約にない業務が発生したときは、サービスでこなしてしまう前に、一度派遣会社の担当者に「顔合わせのときに聞いていない業務が増えています」と伝えておくことが大切です。
後になって時給交渉をしたとき、派遣先から「本人が何も言わずに勝手にやっていた」と言われないための記録にもなります。
派遣会社からは「時給アップは次の契約更新のタイミングで」と言われることがほとんどです。
でもそこで「では次の更新まで、増えた業務はやらないと派遣先に伝えてください」と返したところ、更新を待たずに契約書が書き換えられて、次の給与の締め以降から時給が上がったことがありました。
すぐに動いてもらえることもあるということです。
この積み重ねが、更新面談での交渉材料になります。
実際の交渉の進め方と切り返し術
時給交渉の相手は派遣会社の担当者です。
更新面談のタイミングで「時給を上げていただけませんか」と切り出します。
よく返ってくる言葉が「入社してまだ3か月ですので、時給アップは難しいですね」です。
そこで引き下がってしまう派遣社員が多いのですが、私はこう返します。
「本来の契約内容に戻らせていただきます。顔合わせのときにお聞きしていた業務内容だけに絞りますので、増えた分についてはお断りすると派遣先にしっかりお伝えください」
これを言うと、派遣会社はもめごとを避けたいので、派遣先に時給アップの交渉をしてくれることがほとんどです。
泣き寝入りしてサービスでこなし続ける派遣社員もいますが、私はしません。
ただし、これが言えるのは自分が派遣先に貢献できていると実感しているときだけです。
貢献できていないと感じているなら、強気に出るのは難しい。
それは30年やってきた正直な実感です。
つい最近、派遣会社の担当者からこんなことを言われました。
「今後、派遣先を移るときは時給アップは簡単には望めないと、社内で通達がありました」
本来、派遣社員の耳に入っていい内容ではありません。
それを漏らしてしまうあたりがうっかりさんな担当者らしいのですが、いずれにしても流される必要はありません。
その仕事をその時給でやるかやらないかは、最終的に自分が決めることだからです。
体験談:1050円からスタートして半年で250円アップした話
派遣社員として働き始めたころ、時給がアップするなんてことがあるとは思っていませんでした。
単発の仕事から始まり、次の仕事はマンションの現場事務で工期10か月という最初から終わりが決まっている仕事でした。
期限付きの仕事しか経験していなかったので、時給が上がるという発想自体がありませんでした。
はじめて3か月更新の長期派遣で働き始めたときも、最初はそういうものだと思っていました。
でもそうではありませんでした。
その派遣先は、複数の派遣会社の間でも評判の「気難しい人がいる職場」として知られていました。
最初は1か月のお試し契約で、その当時の時給は1050円でした。
ところがその気難しい人が、私のことをとても評価してくれたようで、派遣会社の担当者からこう言われました。
「とても気難しい人で、高評価をいただけたことははじめてです。絶賛されました。ぜひ今後も働いてくださいとのお話があり、時給を上げさせていただきます」
その後、契約更新のタイミングだけでなく、契約期間の途中でも時給がアップしていき、半年の間で250円上がりました。
本来、契約期間中の時給アップはないものですが、前述の通り交渉次第では契約期間内でも動くことがあります。
しかも後から聞いた話では、その気難しい人が派遣会社に「ずっといてもらいたいから、時給はこちら負担でどんどん上げてあげてほしい」と申し出てくれていたそうです。
自分から交渉しなくても、評価が時給に反映されることがある。
そのためには、まず目の前の仕事にしっかり向き合うことが大前提です。
時給アップの相場と現実
時給アップの幅は、一般的に50円刻みというイメージがあります。
実際に私もほとんどの経験が50円刻みでした。
ただし、担当者によっては15円刻みで上げてくる人もいました。
派遣社員の中でも「あの担当者は15円刻みで有名」と言われているくらいです。
なぜそんなに細かく刻んだ金額なのか。
おそらく正社員の昇給率を参考にしているのだと思います。
2025年の春闘では正社員の平均昇給率は約5.26%という結果でした。
仮に時給1500円で5.26%アップすると約79円、時給1250円なら約66円です。
つまり「50円刻み」はむしろ控えめな金額で、「15円刻み」はかなりケチな話ということが数字でもわかります。
もっとも、派遣会社が本当にそこまで計算しているのかどうかは怪しいところですが。
また、同じ派遣先で同じ仕事をしていても、派遣会社が違えば時給が大きく違うことがあります。
私が今働いている派遣先にも、同じ仕事をしている方がいますが、時給に250円の差があります。
時給交渉を知っているかどうか、そして実際に動いたかどうかの差です。
さらに驚くのは、同じ派遣先に複数の派遣会社から派遣社員が入っている場合、派遣会社によって時給がまったく違うケースがあることです。
以前いた職場で、ベテランの専門職の方と入ったばかりの一般事務未経験の方がいて、派遣先から派遣会社への請求額が逆転していたことがありました。
実際には未経験の方の方が派遣会社にマージンをごっそり取られていて、派遣社員本人がもらっていた時給は専門職の方の方が高かったのですが、請求額だけ見ると逆に見えてしまっていた。
派遣先が派遣会社に支払っている金額と、実際に派遣社員がもらっている時給とは違います
派遣先の正社員からよく言われるのが、「派遣先が払っている金額がそのままあなたの時給でしょ?」という話です。
そんなわけがありません。
派遣先が派遣会社に支払っている金額には、派遣社員の時給だけでなく、派遣会社の担当者のお給料やオフィスの家賃などの運営費、派遣社員の社会保険料の会社負担分、有給休暇の費用など、さまざまな経費が含まれています。
派遣社員の手元に届く時給は、派遣先が払っている金額よりもかなり差し引かれます。
有給休暇については、派遣社員の有給は派遣会社から付与され、有給休暇中の給与も派遣会社が支払う仕組みです。
派遣先の業務担当者から「あなたが有給を取ると、その分うちの部署の経費が減るんでしょ。困るんだけど」と言われたことがあります。
部署ごとに経費の枠が決まっていて、派遣社員の有給休暇もそこから引かれると思っているようです。
派遣先に着任してすぐ「有給休暇は何日ありますか?」と聞いてくる担当者もいました。
以前に3か月の間に有給休暇を20日取られた派遣社員がいたからだそうです。
でも実際には、派遣社員の有給休暇中の給与は派遣会社が負担するものです。
派遣先の経費には関係ありません。
そのことをお伝えすると、納得してもらえました。
この仕組みを知らない正社員が、請求書を見て「派遣さんってこんなにもらってるの?私より給料いいじゃない」と言われることがありました。
請求額がそのまま私たち派遣社員に入る時給だと思われているわけです。
だからこそ、自分の時給を職場で話すのはトラブルのもとです。
次のセクションで詳しく説明します。
【注意】時給は誰にも話してはいけない
時給交渉がうまくいって時給が上がったとしても、その金額を職場で話すのは絶対にやめてください。
時給が上がったという事実そのものも話してはいけません。
時給交渉に失敗した先輩派遣社員から、嫉妬や嫌がらせを受けることがあるからです。
30年の経験から言える、これは鉄則です。
派遣社員同士で話してはいけない理由
以前いた職場で、こんなことがありました。
同じ派遣先に複数の派遣会社から派遣社員が入っていて、派遣先が派遣会社に支払っている請求書の金額を処理していた社員がうっかり漏らしてしまったことがありました。
ベテランの専門職の方と入ったばかりの一般事務未経験の方がいたのですが、請求額が入ったばかりの一般事務未経験の方の方が高く逆転していたのです。
実際には未経験の方の方が派遣会社にマージンをごっそり取られていて、派遣社員本人がもらっていた時給は専門職の方の方が高かったのですが、請求額だけ見ると逆に見えてしまっていた。
でも請求金額が未経験の方の方が高いと知った専門職の方は(未経験の方が実際にもらっている時給は知らないまま)、急にやる気をなくして毎日不満を言うようになり、周りへの当たりも強くなりました。
来客対応など誰かがやらなければならない仕事にも出なくなり、職場の雰囲気は2〜3か月にわたって悪化しました。
最終的にその方は契約更新をしないことにしましたが、退職理由がそんな形だったので引き継ぎもままならず、後任の方がとても苦労していました。
時給の話は、知らなければ穏やかに働けていたかもしれない。
知ってしまったことで、その方自身も職場も、誰も得をしませんでした。
正社員に話してはいけない理由
「派遣会社の支払い処理をしているけれど、正社員の私よりも給料いいよね」とよく言われます。
派遣先から派遣会社への請求金額は把握しているので、実際にいくらもらっているのか確認したかったようです。
前のセクションで説明した通り、請求額と実際の時給は全然違うのです。
「実際にいただいている時給は、請求金額からさまざまな経費が差し引かれた分ですので、請求金額がそのまま私たちに入っているわけではありませんよ」とお伝えして、誤解は解くようにしています。
八つ当たりされても困るので、時給の話は正社員にも話さないのが賢明です。
まとめ
派遣社員は、時給交渉ができます。
でも知らないまま働いている派遣社員がとても多いです。
交渉のポイントをまとめます。
・契約更新の約1か月前、派遣会社からの確認連絡が交渉のタイミング
・日ごろから契約外の業務を派遣会社に伝えておく「種まき」が大切
・断られたら「では契約通りの業務に戻します」と返す
・自分が派遣先に貢献できていると実感できているなら、強気に出て大丈夫
そして忘れてはいけないのが、時給が上がっても誰にも話さないこと。
派遣社員同士でも、正社員にも。
知らなくていいことを知ってしまうと、誰も得をしません。
最終的に、その仕事をその時給でやるかやらないかは自分が決めることです。
泣き寝入りしてサービスでこなし続ける必要はありません。
30年・40社以上の経験から言える、これが私の結論です。
時給交渉の材料にもなる自分のスキルを整理したい方は、
派遣会社の登録情報(スキルシート)の書き方とコツ【派遣社員歴30年の実体験】もあわせてどうぞ。
の書き方とコツ【派遣社員歴30年の実体験】-120x68.png)
