35歳の誕生日を境に、派遣会社からの電話がぴたりと止まりました。
誕生日が繁忙期前だったこともあって、それまでは引く手あまたの状態でした。
1日、3件のお仕事紹介の電話がきていたぐらいでしたので、正直、少し天狗になっていたかもしれません。
それが35歳の誕生日を過ぎたとたん、全く紹介の連絡がこなくなった。
こちらから電話をかけると、それまでと打って変わってそっけない対応をされました。
派遣生活30年の中で、あのときが一番危機感を覚えた時期です。
今から21年前、ちょうど「派遣35歳定年説」が強く言われていた時代でもありました。
年齢はただの数字ではない、と身をもって知った瞬間でした。
35歳の壁は、今も頑丈にそびえ立っている
「派遣35歳定年説は古い」という声をよく見かけます。
人手不足で状況が変わった、スキルがあれば年齢は関係ない、という話です。
労働者派遣の制度については、厚生労働省「労働者派遣事業について」でも概要が公開されています。
それは半分本当だと思います。でも半分は違います。
つい最近、私の後任がなかなか決まらない時期がありました。
派遣会社に聞いてみると、こんな話が出てきました。
年齢の希望を出すことは本来できないはずなのですが、派遣先からは「CAD未経験でも教えるから、なるべく若い子を連れてきてほしい」と言われていたというのです。
表には出ませんが、現場ではこういう「暗黙の優先順位」が今も残っています。
派遣先としては正社員登用を見据えた人材を求めていました。
ただ「紹介予定派遣」と最初から明示してしまうと、いざ派遣先が「もう少し様子を見たい」「ちょっと違う」と思ったときに、派遣社員から「話が違う」ともめやすくなる。
だから通常の派遣として依頼しながら、若い子を優先して連れてきてほしいとだけ伝えていたようです。
今も現場では、こういうことが普通に起きています。
では、36歳を過ぎると市場での立ち位置はどう変わるのでしょうか。
その具体的な理由を紐解いていきます。
36歳を過ぎると、派遣市場での立ち位置が変わる
35歳で仕事が来なくなった私が、36歳を過ぎてまた動き出せた理由を考えたことがあります。
派遣先で1人目の派遣社員が、試用期間のような感じで初回1か月の契約更新を経てチェンジになる場面を、現場で何度も見てきました。
チェンジの理由は様々です。
派遣先が合わないと判断する場合もありますが、派遣社員の側からお断りすることも実は多いのです。
こちらにも断る権利はあります。
そういう現場に2人目を送り込むとき、派遣会社は慎重になります。
1人目とのご縁がなかった現場ですから、次は現場との相性をしっかり見極めて送り込みたい。
職場の空気を読める人、余計なことを言わない人、きちんとこなせる人。
現場のバランスを整えてくれるような人材が必要になります。
36歳以上というのは、派遣会社から見るとその条件に合いやすい年齢です。
経験があって、落ち着いていて、多少のことは受け流せる。即戦力としての信頼感があります。
私自身も2人目、3人目、4人目として送り込まれることがよくありました。
正直、最初は構えることもありました。
でも実際に入ってみると、1人目とのご縁がなかった反省から派遣先が環境を改善していることも多く、むしろ働きやすい現場だったということが少なくありませんでした。
当たりかもと思うことさえありました。
35歳で壁にぶつかった私が、36歳を過ぎてまた動き出せたのはこういう背景があったからだと思っています。
正社員であることに疲れたら、切り替えを考えていい時期です
36〜39歳で派遣への切り替えを考える人には、いくつかのパターンがあります。
正社員として働き続けることへの疲弊です。
高い目標を求められ、断れないプロジェクトをこなし、常にスキルアップを求められる。
そういう環境で30代後半まで走り続けてきた人が、ある時点で限界を感じます。
人間関係にうんざりした人もいます。
役職につけないまま年齢だけ上がっていく閉塞感を抱えている人もいます。
こういった理由で派遣への切り替えを考えることは、逃げではありません。
タイミングの話です。
派遣という働き方の選択肢については、日本人材派遣協会「派遣という働き方」でも紹介されています。
30代前半であれば、正社員のまま踏みとどまることに意味がありました。
育休を使い切る、転職市場での選択肢を残す、そういう理由があったからです。
この時期の働き方については、こちらの記事もあわせて読んでもらえると参考になると思います。
▶20代前半は派遣より正社員をすすめる理由|派遣歴30年の本音
▶育休明けに退職・転職を考えている30代へ。辞める前に知っておきたい派遣という選択肢
でも36歳を過ぎれば、前のセクションで書いたように派遣市場での立ち位置が変わります。
切り替えを選べる条件が整ってくる時期です。
「なんでもできます」も「なんでもできません」も言わない方がいい
36歳を過ぎると、器用にこなせる幅は自然と広がっています。
それだけの経験を積んできているからです。
でもそれを全部出す必要はありません。
以前、同じ現場で働いていた同僚がいました。
入りたいがために「なんでもできます」と言って入ってきた人です。
前職で浅く広くいろいろこなしてきたことが自信になっていたのだと思います。
でも技術的にできることと、1人でこなせる業務量は別の話です。
技術系の仕事に加えて事務も兼務してと仕事を乗せられていくうちに、キャパオーバーになっていきました。
「なんでもできるって言っていたじゃないか」と言われて、悔しそうにしていたのを覚えています。
かといって「なんでもできません」と壁を作りすぎると、現場で孤立します。
できないわけがないようなことまで「できない」と言ってやらない人を見てきました。
周りから見るとできないのではなくやらないのだろうと思うのですが、派遣先からはできない人と見なされて、契約更新されなかったケースも見てきました。
「なんでもできます」も「なんでもできません」も、どちらも得することはありません。
36歳を過ぎれば、ほどほどのバランス感覚が身についているはずです。
いい塩梅のさじ加減、36歳ってそのさじ具合がちょうどできあがっている頃ではないでしょうか。
この年齢で派遣を長続きさせる一番の武器だと思っています。
若さという武器はなくなったけれど、別の武器が育っていた
35歳で仕事の紹介が止まったとき、若さという武器はなくなったんだなという自覚はありました。
失ったと思っていました。
何も増えていないつもりでした。
でも36歳を過ぎて動き出してみると、気づいたことがありました。
安定感、安心感、職場を円滑に回す力。
若いころには意識してもなかなかできなかったことが、いつの間にか当たり前にできるようになっていたのです。
自分では気づかないうちに、若さとは別の武器が育っていました。
スキルの話ばかりしてきましたが、実は36歳を過ぎて一番の武器になるのはそこじゃないかもしれません。
職場にはいるだけで場の空気がピリつく人と、いるだけで空気が柔らかくなる人がいます。
私は勝手に「ギスギス宇宙人」と「和やか聖人」と呼んでいます。
あなたはどちらに近いですか。
ギスギス宇宙人チェック
- 会話の語尾にどこかトゲがある
- 誰かがミスをすると、その場の空気がすっと冷える
- 人によって態度がはっきり違う
- 周囲がいつも「今話しかけていいかな」と様子をうかがっている
- その人がいないときだけ、職場がほっと一息ついている
和やか聖人チェック
- その人が出勤してくると、なんとなく場の空気が柔らかくなる
- ミスした人を必要以上に追い詰めない
- 忙しくても、とげとげしさが出ない
- 新人がなんとなくその人の近くにいることが多い
- 退職してから初めて、「あの人がいたから保っていたんだ」と気づく
心当たりはありませんか。
エクセルの関数が使えることより、職場の空気を整えられることの方が、長く働き続けるための力になります。
これを読んでいるあなたにも、同じことが言えると思っています。
30代後半まで働いてきた中で、自然に身についていることがあるはずです。
でもそれが当たり前になりすぎて、自分では気づいていない。
派遣に切り替えるとき、その積み上げてきたものが必ず力になります。
求められるものが変わっていただけだった
35歳で壁にぶつかったとき、派遣市場から「もう必要ない」と言われた気がしました。
でも実際には、市場が求めるものが変わっていただけでした。
若さや勢いではなく、職場を乱さないこと。
空気を悪くしないこと。
相手に合わせて立ち回れること。
無理と協力の境界線がわかっていること。
そういう力を、現場はちゃんと見ています。
これは資格欄には書けません。面談でもうまく言葉にしづらい。でも現場では確実に評価される力です。
35歳の壁にぶつかったとしても、そこで終わりではありません。
むしろその先から、若さではなく安定感で選ばれる働き方が始まります。
長い社会人生活の中で、私はそう感じています。

