派遣先から直接雇用を打診されると、
- 受けたほうがいいの?
- 断ったら契約終了になる?
- 正社員なの?契約社員なの?
- 給料は上がる?
と迷う人が多いと思います。
結論から言うと、直接雇用だから得とは限りません。
派遣先からの直接雇用の打診は、提示された条件が良く、キャリアの安定やボーナス支給などにつながる「絶好のチャンス」になるケースもたくさんあります。
しかし、一方で「直接雇用になれば、今より必ず待遇が良くなる」と思い込んで話を聞いてしまうと、後で大きなギャップに驚くことになりかねません。
実は、打診の中身をよく聞いてみると、正社員ではなく契約社員やパートであることが多いのです。
私はこれまで、40社以上の派遣先・派遣会社を経験してきました。
大手企業から直接雇用を打診されたこともありましたが、自分の働き方を考えた結果、その場で断りました。
また、同じ職場では直接雇用になったことで年収が下がった人も見てきました。
この記事では、企業が打診する理由、確認すべき条件、私自身の体験をもとに判断のポイントを解説します。
派遣の直接雇用、打診されるタイミングに決まりはない
まず整理しておきます。
- 直接雇用=派遣先企業に直接雇われること
- 無期雇用派遣=派遣会社と期間の定めのない雇用契約を結ぶこと
- 3年ルールによる雇用安定措置=派遣会社が取るべき対応のこと
この3つは似ているようで別の制度です。
私自身、派遣歴が長くなってもここがあいまいでした。
混同している人は意外と多いので、最初に整理しておきます。
3年ルールは、派遣会社が果たすべき義務です。
同じ職場の同じ部署で3年働くと、派遣会社は派遣社員に対して雇用安定措置(労働者派遣法第30条)を取らなければなりません。
派遣会社が取れる選択肢はこのようなものがあります。
- 派遣先へ直接雇用を依頼する
- 別の派遣先を紹介する
- 無期雇用派遣に切り替える
無期雇用派遣は、この選択肢のひとつに過ぎません。
3年経ったら必ず直接雇用になるわけでも、無期雇用派遣になるわけでもないのです。
打診のタイミングに決まりはありません。
「半年経ったら来る」「1年経ったら声がかかる」というルールは存在しない。
企業側が「この人に長く働いてほしい」と判断したタイミングで打診してくるケースが多いのが実態です。
3年が近づいたタイミングで打診してくる企業もありますが、それはあくまで企業側の判断です。
「いつ来るか」よりも「来たときにどう判断するか」を考えておく方が、ずっと役に立ちます。
派遣先が直接雇用を打診してくる5つの理由
企業が直接雇用を打診してくるとき、その背景には必ず企業側の都合があります。
「あなたのために」という気持ちがゼロとは言いませんが、それだけで動く企業はほとんどありません。
手放したくない理由として多いのは、こんなパターンです。
- 即戦力として動いてくれているので、いなくなると業務が回らない
- 人柄がよく、職場の人間関係が安定している
- その人にしかできない特殊な技術や知識を持っている
- 長期間かけて育てた人材をコストをかけずに確保したい
- 派遣会社への費用をなくして、人件費を抑えられる場合がある
5つ目の理由「人件費」について、もう少し詳しく説明します。
派遣先は派遣会社に対して、派遣社員の時給以上の費用を支払っています。
派遣社員が受け取る時給と、派遣先が支払う費用の差額が派遣会社の取り分になる仕組みだからです。
直接雇用に切り替えることで、企業はその差額分を節約できます。
つまり、あなたを引き留めたいという気持ちと、コストを下げたいという計算が同時に働いているケースも少なくありません。
ただし、派遣先企業と派遣会社の間では、直接雇用に切り替える際の「紹介手数料」に関する取り決めが交わされているケースが一般的です。
そのため、企業側がコスト(手数料)を理由に難色を示したり、トラブルを避けるために時期をずらしたりすることがあります。
- 紹介予定派遣の場合:紹介予定派遣を経て直接雇用になる場合は、紹介手数料が発生するケースがあります。
- 契約期間中の引き抜き:契約期間中に派遣会社を通さず動くと、派遣先と派遣会社の間でトラブルになる可能性があります。やむを得ない事情がある場合でも、契約更新のタイミングで退職してから動く方が無難です。
契約内容によって扱いが異なる場合もあるため、詳細は一度派遣会社に確認することをおすすめします。
打診を受けたときに大事なのは、企業側の都合と自分の得を両方確認することです。
企業にとって都合がよくても、自分にとって本当に得になるかどうかは別の話です。
直接雇用=得とは限らない現実
打診の中身をよく聞いてみると、正社員ではなく契約社員やパートであることが多いです。
「直接雇用=正社員」と思って話を聞くと、後でギャップが生まれます。
これまでの多くの派遣先を見てきた限りでは、大企業ほど正社員ではなくパートや契約社員への切り替え提案が多くありました。
理由は企業ごとに異なりますが、人事制度の都合で正社員採用のハードルが高いケースもあるのかもしれません。
問題は待遇です。
直接雇用のパートになると、時給交渉の窓口がなくなります。
派遣のときは、更新のタイミングでスキルや実績を材料に交渉できました。
時給交渉の具体的な方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。
▶派遣社員の時給交渉はできる?30年以上・40社以上の実体験で成功のコツを解説
でもパートになると、昇給のタイミングすら会社次第です。
年に一度の一律アップという会社もあれば、そもそも昇給制度自体がない会社もあります。
仕事の成果や業務量は、給与にほぼ反映されません。
私自身が見てきた中には、直接雇用によって待遇が下がったケースもありました。
同じ職場で働いていた派遣社員の方の話です。
その方は最初、外部の派遣会社から時給1,100円で勤務していました。
ところが約1年後、派遣先から
「今後はグループ会社の派遣会社経由でしか契約しない」と言われ、内部派遣へ切り替わることになりました。
その結果、時給は1,100円から1,050円へ下がりました。
月収で計算すると約165,000円から157,500円になり、毎月7,500円の減収です。
さらにその後、内部派遣会社の契約社員へ切り替わりました。
月給は157,500円。
一見すると内部派遣時代と変わらないように見えます。
しかし、この金額は「20日勤務」を前提に計算されたものでした。
そのため、21日以上出勤する月は、時給換算すると内部派遣時代より収入が少なくなります。
さらに、
- ボーナスなし
- 昇給なし
- 一定時間未満の残業については支給対象外
という運用でした。
「交通費支給」というメリットもありましたが、自宅から職場まで徒歩10分ほどだったため、実質的な恩恵はありませんでした。
結果として、外部派遣として働いていた頃と比べると、年収ベースで少なくとも9万円以上の減収になっていた計算です。
そして5年後、その方は契約終了となりました。
労働契約法第18条により、有期雇用契約は通算5年を超えると、働く側が希望すれば無期雇用へと転換できる権利(無期転換ルール)が発生します。制度の詳細は厚生労働省の有期契約労働者の無期転換ポータルサイトでも解説されています。
契約終了の理由は会社にしか分かりません。
ただ、無期転換ルールの直前で契約終了となったため、本人は複雑な思いを抱えていました。
まず、打診される雇用形態の違いを簡単に整理しておきます。
派遣と直接雇用の雇用形態比較表
| 比較項目 | 派遣社員 | 正社員 | 契約社員 | パート |
|---|---|---|---|---|
| 契約期間 | 有期(3ヶ月〜1年が多い) | 定めなし(無期) | 有期(更新あり) | 有期・無期どちらもある |
| 労働時間 | フルタイムが多い | フルタイム | フルタイムが多い | 正社員より短い |
| 賃金形態 | 時給制 | 月給制が多い | 月給・時給どちらもある | 時給制が多い |
| 契約終了リスク | 契約満了で終了 | 低い | 契約満了で終了 | 契約満了で終了 |
| 時給交渉 | 更新時に交渉できる | 昇給は評価制度次第 | ほぼできない | 一律昇給のみ |
| 仕事の範囲 | 契約範囲内 | 広がりやすい | 契約範囲内 | 広がることがある |
なお、企業によって制度や待遇は大きく異なります。
同じ「直接雇用」でも、正社員・契約社員・パートでは条件がまったく違います。
口頭の説明だけで判断せず、必ず雇用条件通知書などの書面で確認してください。
直接雇用のメリット・デメリット
【メリット】
- 契約更新の不安が減る
- ボーナスや退職金制度がある場合がある
- 福利厚生が手厚くなることがある
- チームの一員として扱われやすい
- 会社によっては正社員登用の道が開ける
【デメリット】
- 派遣より時給が下がることがある
- 時給交渉の機会が減る
- 派遣会社を通したサポートがなくなる
- 合わない職場でも辞めづらくなる
- 仕事の範囲が広がりすぎることがある
このように、直接雇用にはメリット・デメリットの双方が存在し、「直接雇用だから絶対に受けるべき」「派遣のほうが必ず良い」と一概に言い切れるものではありません。
結局のところ、直接雇用が得かどうかは、提示された具体的な「中身(条件)」次第です。
雇用形態だけで判断せず、給与・休日・有給・仕事内容まで含めて今の派遣の待遇と比較することが大切です。
私が大手企業の直接雇用を「即答で断った」理由【体験談】
多くの企業担当者は、派遣社員は正社員になれなくて仕方なく派遣をしていると思い込んでいます。
だから「うちに来ませんか」という提案が断られることを、そもそも想定していない。
私が実際に働いていたある大手企業での出来事です。
責任者でもあった上長から、契約にない業務の追加を求められました。
そのとき言われたのがこれです。
「この業務を引き受けてくれたら、直接雇用してやってもいい」
もちろん、すべての企業がこのような対応をするわけではありません。
これは私が実際に経験した一例です。
そもそも、直接雇用をおいしい話だと思っていないこちらには、それは交換条件にすらなっていませんでした。
契約にない業務を引き受けさせるための手段として、直接雇用を持ち出してきたことになります。
私は即座に答えました。
「直接雇用されるなら辞めます。派遣のままがいいんです」
当時の私にとっては、時給交渉ができることや、職場を自由に選べることの方が重要でした。
上長は完全に言葉を失い、しばらく沈黙が続きました。
まさか断られるとは思っていなかったのだと思います。
大企業に直接雇用してもらえるなら、喜んで受けるはずだという感覚があったのでしょう。
でも派遣を自分で選んでいる人間には、その感覚は通用しませんでした。
脅しのつもりで出してきた切り札が、こちらには全然刺さらなかっただけの話です。
結果として「辞められたら困る」と判断したのか、業務追加の話は立ち消えになりました。
派遣先からの直接雇用を断ったらどうなる?
断ったら契約を切られるのではないか。
そう不安に思う人は多いと思います。
今回のケースでは、業務追加の話がなかったことになり、派遣としてそのまま継続しました。
ただしこれが必ずそうなるとは言い切れません。
同じ時期、同じ職場にいた別の派遣の方は、紹介予定派遣として入っていました。
その方は直接雇用を断ったわけではありませんでしたが、任期満了という形で契約終了になりました。
「断ったら必ず切られる」わけではないし、「断っても絶対大丈夫」とも言い切れない。
相手の会社の状況や担当者の判断によって、結果は変わります。
もうひとつ、断ることで起きる変化があります。
同じ職場で直接雇用のパートとして働いている人たちの受け取り方の問題です。
派遣社員がパートへの切り替えを断ると、「今の派遣の待遇のほうが私たちより良いということ?」と受け取られることがあります。
自分の選択を否定されたような気分になる人もいる。
そうなると、職場の空気が変わります。
私はそれを見越して、気まずくなるだけだと判断しました。
契約の更新タイミングで、更新しないことを選びました。
泣き寝入りではなく、自分で考えた末の選択です。
直接雇用についてよくある質問(FAQ)
Q. 派遣先から直接雇用を打診されたら、必ず受けたほうがいいですか?
A. いいえ。
直接雇用だからといって、必ずしも待遇が良くなるとは限りません。
給与や賞与、雇用形態、仕事内容などを現在の派遣契約と比較し、自分にとってメリットがあるかどうかで判断することが大切です。
Q. 派遣先からの直接雇用を断ったら契約終了になりますか?
A. 必ず契約終了になるわけではありません。
私自身は直接雇用を断ったあとも派遣社員として勤務を続けました。
ただし、企業の方針や状況によって対応は異なるため、一概には言えません。
Q. 直接雇用に切り替えると、自分が紹介料を払うことになりますか?
A. いいえ。
紹介手数料の取り決めは、派遣先企業と派遣会社の間で交わされるものです。
働く人が負担するものではありません。
ただし、企業側がその手数料を理由に難色を示したり、時期をずらしたりすることはあります。
Q. 直接雇用の話があったら、派遣会社にはいつ伝えればいいですか?
A. 条件を確認したうえで、できるだけ早めに伝えましょう。
派遣契約には直接雇用に関する取り決めがある場合もあるため、自己判断で話を進めるのは避けたほうが安心です。
とくに契約期間の途中で動くと、派遣先と派遣会社の間でトラブルになる可能性があります。
Q. 直接雇用とは正社員になることですか?
A. いいえ。
直接雇用には正社員だけでなく、契約社員やパート、アルバイトなども含まれます。
打診を受けた際は、どの雇用形態なのかを必ず確認しましょう。
Q. 派遣社員が直接雇用になるタイミングは決まっていますか?
A. 決まっていません。
半年や1年で打診される人もいれば、3年近く働いてから打診される人もいます。
企業が「長く働いてほしい」と判断したタイミングで声がかかるケースが一般的です。
Q. 3年働けば、必ず直接雇用になりますか?
A. なりません。
3年ルールでは、派遣会社に雇用安定措置を講じる義務がありますが、その方法は「直接雇用の依頼」「別の派遣先の紹介」「無期雇用派遣への転換」など複数あります。
直接雇用が義務付けられているわけではありません。
Q. 直接雇用になると給料は上がりますか?
A. 上がる場合もあれば、下がる場合もあります。
私が見てきた中には、直接雇用への切り替えによって年収が下がったケースもありました。
給与だけでなく、賞与や昇給制度、福利厚生まで含めて比較することが重要です。
Q. 直接雇用の話はその場で返事をしなければいけませんか?
A. 基本的には、その場で即答する必要はありません。
給与や仕事内容、雇用形態などの条件を書面で確認し、納得したうえで返答することをおすすめします。
まとめ
直接雇用の打診を受けたら、「直接雇用だから得」と考えるのではなく、今の派遣条件と比較して本当に得かどうかで判断してください。
打診を受けたら確認するチェックリスト
- 雇用形態は正社員か、契約社員か、パートか
- 月収・年収は今より上がるか、下がるか
- 賞与はあるか
- 昇給制度はあるか
- 有給休暇はどう引き継がれるか
- 交通費は支給されるか
- 仕事内容や責任範囲は変わるか
- 転勤や異動はあるか
- 正社員登用制度はあるか
- なぜ今このタイミングで打診されたのか
- 自分の絶対に譲れない条件を満たしているか
その場で答える必要はありません。
まず条件と、打診してくる企業側の理由をひとつずつ確認してください。
条件を聞いて納得できるなら受ければいい。
納得できないなら断ればいい。
もし受けてみてダメだったとしても、また派遣社員に戻ればいい。
派遣という働き方は、そのくらい自由でいい。
直接雇用の打診は、「評価された証」と受け止めてよいと思います。
だからといって、必ず受ける必要はありません。
自分にとって納得できる条件かどうかを基準に判断してください。
ひとつだけ、派遣生活を続けてきて大切にしていることがあります。
進退を人にゆだねたり、人に左右されると、自分でも気がつかないうちに傷になっていることがあります。
気持ちが落ちてしまうと、次に動き出せるまで時間がかかります。
私は、その時間がいちばんもったいないと、何度も経験して気づきました。
だから自分のタイミングで、自分で決めることを大切にしています。
直接雇用の打診は、怖いものでも喜ぶものでもありません。
自分の軸を持って、自分で判断する。
その積み重ねが、派遣という働き方をずっと自分のものにしていくことだと思っています。

