私自身はまだ60代ではありません。
でも55歳をすぎてから、契約更新のたびにふと考えることが増えました。
この仕事、あと何回更新するんだろう。
この通勤電車、あと何年乗るんだろう。
年上の60代の友人たちを見ていると、昔とはずいぶん違うなと感じることがあります。
昔なら60歳で定年、そのまま隠居生活の始まり、という感じでした。
私のまわりの60代の友人たちは、まだ「いつまで働くか」を決めていません。
60歳定年の職場を辞め、条件は下がったけれど正社員にこだわって別の会社に転職した友人。
直接雇用の契約社員として働いていたものの66歳でその仕事がなくなり、別の部署に異動になった友人。私の周りは、みんなまだ働いています。
会社員であれば定年という区切りはあっても、その後どうするかを「自分で選べる」時代になりました。
聞こえはいいのですが、実際には経済的な理由から65歳以降も働き続ける人は少なくありません。
では、派遣社員はどうでしょうか。
派遣社員だからといって、法律で一律に「○歳で定年」と定められているわけではありません。
これを知らない人のほうが多いのではないかと思います。
ただし、派遣会社ごとに就業規則で定年を設けている場合はあります。
また、実際に仕事の紹介が来るかどうかは、スキルや地域によっても大きく変わります。
定年という区切りがないぶん、辞め時はさらに見えにくい。
この記事では、まだ60代ではない私が、50代から見えてきた「60代以降の働き方」について整理します。
- 派遣社員に定年はあるのか
- 60代になると仕事はどう変わるのか
- 辞め時を考えるための判断軸
- 完全リタイア以外の選択肢
一律の定年が法律で定められていない派遣社員は、いつ、どうやって働き終わりを決めるのでしょうか。
派遣に法律上の定年はない──でも現実は違う
派遣社員だからといって、法律で一律に「○歳で定年」と定められているわけではありません。
ただし、雇用主である派遣会社が就業規則などで定年を定めている場合があります。
(参考:厚生労働省「労働者派遣制度について」)
派遣社員には大きく分けて2種類あります。
派遣会社に登録して仕事があるときだけ雇用契約を結ぶ「登録型派遣」と、派遣会社に常時雇用される「無期雇用派遣」です。
どちらの場合も、派遣会社の就業規則の内容によって、定年の扱いは異なります。
また、派遣には原則として3年の期間制限がありますが、60歳以上の派遣社員はこの期間制限の対象外です。
(参考:厚生労働省「労働者派遣制度について」)
そのため、60歳以上の派遣社員は、3年の期間制限を理由に同じ派遣先での就業を終了する必要はありません。
法律上は働き続けることができる。60歳以上の派遣社員は3年ルールの適用も受けない。
なお、ここでいう「派遣社員の雇用主」は派遣先企業ではなく、雇用契約を結んでいる派遣会社です。
定年の有無や就業規則も、派遣会社ごとに確認する必要があります。
ただし、法律上働けることと、希望する仕事が見つかることは別です。
実際には、地域・職種・スキルによって状況は大きく変わります。
60代の派遣社員、2つのパターン
60代の派遣社員といっても、そこに至るまでの経緯は大きく2つに分かれます。
正社員定年後、関連会社の派遣社員へ
正社員として定年を迎えた後に派遣社員として再登場するパターンです。
60歳で定年退職し、子会社や関連会社に派遣社員として再雇用されるケースが代表的です。
職場では以前の役職や経験を知っている人もいる中で、立場は派遣社員になっている。
指示を出す側だった人が、指示を受ける側になる。
このギャップに戸惑う人も少なくないようです。
日本人材派遣協会の2025年度調査では、60歳以上が派遣で働く理由として「これまでの就業経験を活かせるため」が25.4%と、他の年代に比べて高い割合になっています。
(日本人材派遣協会「2025年度派遣社員WEBアンケート調査結果」)
もともと派遣社員のまま60代になった
もともと派遣社員として働き続けてきた、いわゆる「渡り鳥」のパターンです。
30代・40代・50代と派遣を続け、気づけば60代になっていた。
定年という概念が最初からないぶん、辞め時の感覚も曖昧なまま年齢を重ねていきます。
この2つのパターンは、辞め時に対する意識もずいぶん違います。
定年退職を一度経験している人には「区切り」の感覚がありますが、派遣を続けてきた人には、その感覚がないまま60代を迎えることになります。
「仕事紹介が来なくなる」が事実上の定年
派遣社員に法律上の定年はありません。
ただ、派遣社員として長く働いていると、「最近、紹介の連絡が減ってきた」「以前は選べたのに、今は来た仕事を断れない」と感じる人もいます。
私はこうした状態を、派遣社員にとっての「事実上の定年」と感じることがあります。
派遣社員として働いている人の中には、60代になると紹介される案件の数や内容が変わったと感じる人もいます。
これは統計データではなく、私自身や周囲で見聞きした範囲での実感です。
私自身も50代になってから、「あと何年働くんだろう」と考える機会が増えました。
派遣社員には定年という節目がありません。
だからこそ、仕事があるうちから、自分なりの働き終わりを考えておく必要があるのかもしれません。
60代の仕事の辞め時を考える3つの軸
「60歳になったから辞める」
「65歳になったから辞める」
そんな明確な線引きがあるわけではありません。
派遣社員には定年という節目がないからこそ、自分なりの判断基準を持っておく必要があります。
なお、ここで紹介する内容は、あくまで個人の経験に基づいた考え方です。
年金や資産運用など個別の判断については、ねんきん定期便や公的機関の窓口でご確認ください。
ここでは、仕事の辞め時を考えるための3つの軸を整理してみます。
経済の軸──お金の現実を把握する
まず確認しておきたいのは、年金・貯蓄・生活費の3点です。
特に一人で生活を支えている場合は、自分自身の収入や年金を中心に生活設計を考える必要があるため、この軸が最初の判断基準になります。
- ねんきん定期便で年金の見込み額を確認しているか
- 退職後の月々の生活費を計算したことがあるか
- 派遣の社会保険から国民健康保険に切り替わった場合の保険料差額を把握しているか
- 貯蓄が何年分の生活費に相当するか計算したことがあるか
- 65歳以降も働く場合と辞めた場合で収支がどう変わるか把握しているか
体力・健康状態の軸
- 今の仕事を「頑張ればできる」ではなく「無理なく続けられる」と感じているか
- 通勤の負担が以前より重くなっていないか
- 仕事の翌日に疲れが残るようになっていないか
社会とのつながりの軸
仕事は収入を得る場であると同時に、社会との接点でもあります。
- 仕事以外に定期的に人と会う場があるか
- 退職後の「最初の一週間」の過ごし方がイメージできるか
- 平日の昼間に自分が何をしているか想像できるか
60代の友人たちを見ていて感じること
子どもの将来まで考えて働き続ける友人
非常勤として働いていた友人がいます。
59歳のとき、2年の任期満了を迎えるタイミングで、勤め先の制度が変わり、非常勤という枠自体がなくなってしまいました。
代わりにできたのが契約社員という枠でしたが、そちらに移るには試験に合格する必要がありました。
ただ、契約社員になれたとしても定年は60歳。
試験を受けて合格しても、働けるのは60歳の誕生日までの5か月ほどでした。
割に合わないと感じたのか、友人はその試験を受けず、非常勤の任期満了とともにその職場を離れることになりました。
その後、条件は下がったけれど正社員にこだわって別の会社に転職しました。
その友人は遅めに子どもを授かったため、今も子どもは大学生です。離婚してからは、ひとりで子どもを育ててきました。
「子どもが大学を卒業して社会人になったとき、就職先から身元保証人を求められたら、自分が保証人になれるようにしておきたい」
それが、今も正社員で働くことにこだわっている理由の一つだそうです。
私は「今の時代も、正社員でなければ身元保証人になれない会社があるのかな」と少し気になりました。
調べてみると、入社時に身元保証書を求めるかどうかは会社によって異なります。
少なくとも法律上、身元保証人を「正社員に限る」と一律に定めたルールがあるわけではありません。
(参考:大阪労働局「採用時の提出書類に関する留意点」)
それでも、本人にとっては「子どもの就職のときに困らないように、自分もまだ働いていたい」という明確な理由があります。
60歳になったから仕事を辞める。
そんな単純な話ではないのだと、この友人を見ていて感じます。
年齢より「経験」が武器になった知人
もう一人、66歳の知人にも印象に残っている話があります。
直接雇用の契約社員として働いていましたが、人員整理によって任期満了となり、その仕事を離れることになりました。
ただ、そこで終わりではありませんでした。
同じ会社の別部署の仕事に応募して面接を受け、合格。
新しい部署で働き始めました。
ところが、約30年にわたってコールセンターで働いてきたベテランでも、環境が変われば簡単にはいかないようです。
新しい業務への対応に苦労したうえ、年下の上司との関係にも悩んでいました。
年下だからというだけではないのだと思います。
柔らかく接してくれる年下上司の指示には素直に従える一方で、理不尽に感じる指示をする上司には強い抵抗を感じる。
年齢差そのものよりも、「どういうふうに指示されるか」のほうが大きかったのかもしれません。
年下上司との付き合い方については、こちらの記事でも詳しく書いています。
40代・50代向けに書いた内容ですが、年齢が上がってもこの悩みが消えるわけではないと、この知人を見ていて改めて感じました。
▶派遣先の年下上司との接し方|40代・50代の気持ちが少しラクになる考え方
その人は、合わない環境の中で毎日泣きながら受電していたそうです。
それでも、約30年のコールセンター経験で培ってきた「話す力」は、なくなりませんでした。
その部署の業務自体は合わなかったものの、「しゃべれる人」という強みは会社から評価され、別の合いそうな部署へ配置換えになりました。
今はそこで研修を受けています。
66歳で仕事を失っても、これまで培ってきた経験まで失うわけではありません。
年齢が上がれば、若い頃と同じように何でもできるとは限らない。でも、長年積み重ねてきた経験が、別の場所で武器になることもある。
この話を聞いて、私は「60代になったら仕事を辞めるか続けるか」という二択だけで考える必要はないのかもしれないと思いました。
「頑張れば辞められる」も、思ったより単純じゃない
最近、私が周囲を見ていて感じることがもうひとつあります。
人手不足の影響もあるのかもしれませんが、以前なら一定期間の勤務を前提としていた仕事が、1年ごとに契約を更新する契約社員の求人になっているケースが増えたように感じます。
そして、定年の年齢そのものも、以前より固定されたものではなくなってきたように思います。
「62歳まで頑張ろう」
そう自分の中でゴールを決めて、何年も気を張って働いてきた人が、会社から「制度が変わって、65歳まで働けるようになりました」と言われる。
会社側からすれば、雇用期間が延びるのは良い話です。でも、本人にとっては必ずしもそうとは限りません。私の周囲でも、「そこまでだと思って頑張ってきたのに、ゴールが先に延びてしまった」と感じて、モチベーションが保てなくなる人をまあまあ見かけます。
定年がある働き方は、区切りがある分「そこまで頑張ればいい」という安心感があるように見えます。でも、そのゴールポスト自体が動くこともある。
そう考えると、派遣社員のように最初から自分でゴールを決める働き方と、根本的にはそれほど違わないのかもしれません。
辞める前に「ギアを下げる」という選択
辞め時を考えるとき、「続ける」か「辞める」かの二択で考えがちです。
ただ、派遣社員にはその間の選択肢があります。
フルスロットルで走っていた自転車を、景色を見ながら流す。
そんなイメージです。
たとえばこんな調整があります。
- フルタイム → 週4日勤務
- 残業あり → 残業なし
- 通勤1時間 → 通勤20分
- 責任の重い仕事 → 補助的な業務
ただし、勤務日数や時間などの働き方を変えると、社会保険の加入条件に影響する場合があります。
条件は勤務先や契約内容によって異なるため、変更前に派遣会社へ確認しておくと安心です。
(参考:厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」)
完全にリタイアするのではなく、まず一段ギアを下げてみる。
それで生活が回るか、心に余裕が生まれるかを確認してから、次の判断をしても遅くはありません。
派遣社員の場合、契約更新のタイミングで勤務日数や時間などの希望を派遣会社に相談できる場合があります。
これは派遣という働き方の、数少ない強みのひとつだと思います。
私のまわりで60代の派遣社員を見ていると、完全リタイアではなく、こうした「ギアを下げた状態」で働き続けている人がいます。
お金のためだけでもない。
生きがいのためだけでもない。
生活リズムを保つため。
社会とのつながりを持ち続けるため。
そして、自分らしいペースで暮らすため。
60代の働き方は、「働くか辞めるか」ではなく、「どれくらい働くか」を考える時期なのかもしれません。
まとめ
ここまでの内容を整理すると、次の通りです。
- 登録型・無期雇用いずれも、派遣会社の就業規則に定年の定めがあるかどうかを確認する必要がある
- 60歳以上は3年の期間制限の対象外
- 紹介される案件の数や内容は、地域・職種・スキルによって変わる
派遣社員だからといって、法律で一律に「○歳で定年」と定められているわけではありません。
でも、それは「誰かが辞め時を決めてくれる」ということではありません。
むしろ逆で、誰も決めてくれないから、自分で考えるしかない。
一般的な会社員には定年という区切りがあります。
一方、派遣社員の場合は、法律で一律の定年年齢が決められているわけではなく、派遣会社の就業規則などによって扱いが異なります。
仕事があるうちは続けられる。
でも、仕事がなくなったときに、初めて「働き終わり」を意識する人もいる。
そうならないために、仕事があるうちから考えておくことが大切だと思います。
辞め時に正解はありません。
経済的な準備が整っているか、体力的に無理なく続けられるか、仕事以外の居場所があるか。
その3つを自分なりに確認しながら、自分のペースで判断していく。
それが、定年という一律の区切りがない働き方を選んだ人間の、ひとつの答えなのかもしれません。
自分で終わりを選べるうちに、少しだけ考えてみてください。

